署名照合に関する研究論文が刊行されました

当研究室の研究論文が,電子情報通信学会論文誌A(Vol.J100-A No.12)にて刊行されました.論文の内容について解説します.

はじめに

スマートフォンやPCへのログイン,ATMを使って銀行口座からお金を引き出す,クレジットカードで買い物をするなど,日常生活のいろいろな場面で本人確認(技術的には個人認証と呼ばれます)が必要になる場面があります.現在,主に用いられている個人認証の方法には,以下の4種類があります.

  1. 所有物認証:カードや印鑑など,その人しか持っていない物を用いて認証を行う方法です.
  2. 記憶認証:パスワードや暗証番号など,その人しか知らない情報を用いて認証を行う方法です.
  3. 身体認証:顔,指紋,虹彩など,その人の身体にしかない特徴を用いて認証を行う方法です.
  4. 行動認証:署名(サイン),歩様(歩き方),ジェスチャーなど,その人にしかできない動作を用いて認証を行う方法です.

署名照合の課題

これらのなかで,身体認証と行動認証はまとめて「バイオメトリクス(生体)認証」とも呼ばれます.署名(サイン)は現代の日本ではあまり普及していませんが,欧米諸国では古くから用いらている標準的な個人認証方法です.他の認証方法と同様に,署名照合にもいろいろな利点・欠点があります.署名照合の最も大きな問題は他の認証方法(例えば虹彩や指紋)に比べて認証の精度が低い点です.この問題の解決を目指して様々な企業や大学,研究機関で研究開発を進められています.

組み合わせ分割署名照合
組み合わせ分割署名照合の処理の流れ

私たちヒューマンインターフェース研究室でも,2010年頃から署名照合の研究を進めています.オンライン,オフラインそれぞれ単独での署名照合,これらを組み合わせた組み合わせ署名照合,署名を姓名または左右領域に分割して照合する「組み合わせ分割署名照合法(右図)」を開発し,照合精度の向上を実現してきました.

私たちが開発した組み合わせ分割署名照合法は,署名照合の精度向上を実現したものの,ひとつの大きな課題を抱えていました.それは,機械学習のための学習用データに訓練偽筆データが必要である点です.訓練偽筆とは,真の署名(例えばAさん本人が書いたAさんの署名)を見ながら,真似る練習をした上で別人(例えばBさん)が書いた署名です.機械学習用に収集するひとつひとつの真筆データに対して,訓練偽筆データを準備するのは時間的にもコスト的にも難しく,実用上の高いハードルになっていました.

この論文の成果

今回刊行された論文ではこの問題の解決を目指して,登録された真筆署名だけを使って署名照合の学習を行うランダム偽筆学習法(右の図)を提案しました.また,ランダム偽筆学習で発生する学習用データのアンバランス(真筆は少なく,偽筆が非常に多くなる)を解消しつつ学習する方法も開発しました.

本手法の性能を,日本語,オランダ語,中国語の署名を含む多言語署名データベースを用いて評価したところ,訓練偽筆を用いた場合と同程度の照合性能が実現できることがわかりました.

関連論文

  • 川添 由美子, 大山 航, 若林 哲史, 木村 文隆: “濃度こう配特徴を用いたオンライン署名照合の高精度化”, 電学論C, Vol. 130, No. 12, pp.2142-2149 (Dec. 2010) [Link to Journal]
  • Takashi Ito, Wataru Ohyama, Tetsushi Wakabayashi, Fumitaka Kimura: “Combination of Signature Verification Techniques by SVM” Proceedings of 13th International Conference on Frontiers in Handwriting Recognition (ICFHR2012), pp. 428-431 (September 18-20, Bari, Italy)
  • Yuta Kamihira, Wataru Ohyama, Tetsushi Wakabayashi and Fumitaka Kimura : “Improvement of Japanese signature verification by segmentation-verification” Proceedings of 12th International Conference on Document Analysis and Recognition (ICDAR2013), pp. 379–382 (August 25-28 2013, Washington D.C., USA)
  • Yuta Kamihira, Wataru Ohyama, Tetsushi Wakabayashi, Fumitaka Kimura : “Improvement of Japanese Signature Verification by Combined Segmentation Verification Approach”Proceedings of the Second IAPR Asian Conference on Pattern Recognition (ACPR2013), pp. 501–505 (November 5-8 2013, Naha, Japan)
  • 上平 裕太, 大山 航, 若林 哲史, 木村 文隆: “組み合わせ分割照合法による日本語署名照合の高精度化”, 電学論C, Vol. 134, No. 12, pp.1809-1816 (Dec. 2014) DOI: http://dx.doi.org/10.1541/ieejeiss.134.1809 [LINK]
  • Wataru Ohyama, Yuuki Ogi, Tetsushi Wakabayashi, and Fumitaka Kimura: “Multilingual Signature-Verification by Generalized Combined SegmentationVerification”, Proceedings of 13th IAPR International Conference on Document Analysis and Recognition (ICDAR2015), pp. 811-815 (Augst 23-26 2015, Nancy, France) DOI: 10.1109/ICDAR.2015.7333874
  • Keigo Matsuda, Wataru Ohyama, Tetsushi Wakabayashi, Fumitaka Kimura:”Effective Random-impostor Training for Combined Segmentation Signature Verification”, Proceedings of 15th International Conference on Frontiers in Handwriting Recognition (ICFHR2016), #149, pp.489-494 (October 23-26, Shenzhen, China) DOI: 10.1109/ICFHR.2016.0096